2008年12月6日
Chapter-221 サイエンスニュースフラッシュ 2008年11月号
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海洋の酸性化が進んでいるかもしれない
シカゴ大学などの研究チームがアメリカのワシントン州沖で海水の酸性化がこれまでの予測では、22世紀になって到達すると思われていたレベルにすでに達しており、予測の10倍以上のペースで進行しているらしいことを発見しました。
海水が酸性化するとサンゴや貝殻が化学反応で溶けてしまったり、ウニやエビ、カニなどの甲羅の形成に悪い影響が出たりしますし、炭酸カルシウムを栄養とする改装が大量に発生したり、酸性化で減少した生物にこれまで食べられていた小型の生物の勢力が増すなど生態系のバランスが変化することも考えられます。
これまで海水の酸性化が確認されているのは熱帯地方のみで、温帯で確認されたのは今回が初めてです。そのため、地球規模ではどのような変化が起きているのかはまだわかっていません。従って、今回の研究成果はワシントン州沖に特有の現象かもしれませんので、ほかの海域でさらにデータを収集し、何が起きているのかを見極める必要があります。
ヒトES細胞から機能する大脳組織を作り出すことに成功
独立行政法人理化学研究所の研究チームが、マウスとヒトそれぞれのES細胞から動物の脳に似た立体構造と特有の神経活動を持つ大脳皮質組織を作り出すことに世界で初めて成功しました。
今回、特にヒトES細胞から作ったものでは、胎児の大脳皮質とよく似た4層の組織構造を作製することができました。また、この方法で形成した大脳皮質組織は、一定の神経ネットワークを形成し、大脳に特有の同期した神経活動を自発的に行うことが確認され、神経活動の一部を示すことも分かりました。さらに、異なった誘導因子を加えることで、大脳皮質の中でも運動野周辺の領域、視覚野周辺の領域、嗅覚の中継をする嗅脳、記憶をつかさどる海馬周辺領域の4つの特徴を持った神経組織を作り出すことにも成功しました。
中国で世界最古のカメの化石を発見
北京の中国科学院の研究者らが世界最古と考えられるカメの化石を発掘しました。この発見はカメがどのような進化の結果、甲羅の中に入ることになったのかという進化上の謎が解き明かきっかけになるかもしれないということです。
今回発掘されたカメの化石は2億2000万年前のものだそうですが、最古のカメとは言っても今のカメとはだいぶ形が違っていて、背中側の甲羅はなく、お腹側を護する平らな甲羅のみ現在のカメと同様に持っていたと言うことです。
今回の発見は、カメの甲羅が最初はお腹側から形成されたことを意味しており、カメはお腹側の甲羅を持つ種類が進化して、今日のカメに見られるような典型的な甲羅が形成されたと考えることができます。
マンモスの再生
シベリアの凍土に閉じ込められていた約2万年前のマンモスの体毛を使って、マンモスゲノム配列の概略が解読されました。今回解読されたゲノムは全体の5分の4程度ですが、数年後には全ゲノムが解読されるはずです。
今回、マンモスの体毛からゲノムの解読に挑んでいるペンシルベニア州立大学の生化学者ステファン・シュースター博士はリバースエンジニアリングつまり、現代のゾウのゲノムを操作してマンモスのゲノムを作り出そうと考えているのです。
2007年には細菌のゲノムを完全に合成で再現することに成功した報告もあり、ゲノムサイズが小さければゲノムを作り出して生物を再現することは可能になっています。ただし、マンモスのゲノムは40億ペアもの塩基対があり、昨年作り出された細菌のゲノムの6000倍もの大きさがありますので完全合成は困難です。
ただ、研究者らによると、現代のゾウとマンモスのゲノムは非常に良く似ており、その違いは0.6%と見積もられています。リバースエンジニアリングならばこの0.6%だけを作り出せばよく、合成された細菌ゲノムとの大きさの違いは60倍まで縮まります。
そうはいっても、細菌の場合はゲノムができればそれでほぼ細菌の出来上がりなのですが、マンモスの場合はそのゲノムからゾウの卵子の中でマンモスの退治を作り出さなければなりませんので、これまで誰も試みたことの無い予測できない困難が待ち構えている可能性もあります。けれど、研究者らは100%不可能と決まっているわけではないと考え、精力的に研究に取り組んでいます。
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