2009年1月31日
Chapter-227 シャドーバイオスフィア 

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 地球以外の天体で生命が確認された例はありませんが、様々な天体観測の結果から、生命は地球だけの特権ではなく、生命が存在しうる環境を持っていると思われる天体がいくつかすでに見つかり、多くの科学者は地球外生命は存在すると考えています。

 つまり、宇宙で生命が誕生するチャンスは必然と呼べるほどたくさんあると考えられているのです。さらに考えを発展させて、地球のような環境があれば容易に生命が生まれるとするならば、地球で何度も生命が生まれても良いじゃないか、と考えることもできます。

 それらの地球外生命や、地球で私たちとは独立して誕生したかもしれない生命は、私たちとは全く異なる生命の仕組みによって生きているかもしれません。

 そのような私たちとは根本的に異なる生命のことを「異質生命体」とよびます。地球上でも異質生命体が見つかっていないということは、それらは微生物のように小さな生命であろうと思われます。

 たとえば、拙著「人を助けるへんな細菌すごい細菌」198ページで紹介したナノバクテリアも異質生命体の有力候補です。

 そのような私たちとは異なる生態系のことをシャドーバイオスフィアと呼びます。シャドーバイオスフィア生物がどのようなものか想像してみると、たとえば、D体のアミノ酸からなる生物、イソバリンやシュードロイシンと呼ばれるような変わった形のアミノ酸がタンパク質の構成成分である生物などいろいろなものが考えられます。

 また、別の可能性として元素の置換があります。元素周期表では縦方向に並んだ元素は似た性質を持っています。中でも研究者が注目しているのはリンです。周期表でリンの真下にあるのはヒ素です。生体内でリン酸化は様々な生命反応の要所にありますが、これがヒ素に置き換わっている生物は成立しうると考えられています。地球上には火山のようにリンが少なくヒ素が多い環境がふんだんにありますので、そのような極限環境に住む生物の中にリンがヒ素に置き換わった生命がいる可能性があります。

 地球上でシャドーバイオスフィアを研究する目的の一つに地球上で生命は複数回誕生したのかどうかの答えを求めることがあります。ただ、この点については多くの難しい問題があります。そもそも、私達の生命がどのようにして始まったのかがよくわかっていないのに、違う始まり方をした生命というものを私達は認識できるのかどうか。また、別々の系統の生命が誕生したとしても、地球という共通の環境で数十億年にわたって生活しているうちに、収斂進化と呼ばれる環境に最適化した似たもの同士に進化してしまう可能性です。

 ここ数年、深い海の底や地底で今まで知られていなかった新しい生物が次々と発見され、私達が知っている生物は地球上に住む生物のほんの一部であることが明らかになりました。今後、未知の生物を探し求める研究が進展することによって、シャドーバイオスフィアに出会える可能性はありますし、もし出会えなくともそれらの可能性を研究することによって、生命に関する私達の知識は深まり、私達の生命や地球外の生命についてより理解できるようになるものと思われます。


バックナンバー
   
Chapter-226 ジェットコースターの楽しみ方
Chapter-225 再び注目される超伝導
Chapter-224 ピンチになると活躍する遺伝子 
Chapter-223 アルツハイマー病に関する新たな発見
Chapter-222 私達が春を感じる仕組み
Chapter-221 サイエンスニュースフラッシュ 2008年11月号  
Chapter-220 惑星探査機ボイジャー2号末端衝撃波面通過
Chapter-219 絶滅動物を復活させる新技術
Chapter-218 粘菌問題再び
Chapter-217 2008年 ノーベル物理学賞
Chapter-216 2008年 ノーベル生理学・医学賞 
Chapter-215 サイエンスニュースフラッシュ 2008年9月号
Chapter-214 地熱発電の可能性
Chapter-213 夜行雲 / 天の川銀河で発見された新たな構造
Chapter-212 iPS細胞の応用
Chapter-211 長期記憶形成のメカニズムがわかり始めた
Chapter-210 サイエンスニュースフラッシュ 2008年7月 
Chapter-209 太陽電池飛行機
Chapter-208 ナメクジウオ!! 
Chapter-207 波力発電の現状
Chapter-206 サイエンスニュースフラッシュ 2008年6月号 
Chapter-205 植物のノアの方舟 
Chapter-204 iPS細胞が世界を動かす
Chapter-203 サイエンスニュースフラッシュ 2008年5月号
Chapter-202 医学の歴史上最も珍しい10の疾患 
Chapter-201 宇宙の話題を盛り合わせ
Chapter-200 PQQってなに?
Chapter-199 人類は7万年前に絶滅寸前の状態に追い込まれれていた
Chapter-198 サイエンスニュースフラッシュ 2008年4月号
Chapter-197 日焼け止めがサンゴの白化を促すことがわかった
Chapter-196 干からびた生物が元どおりに生き返るメカニズムを解明
Chapter-195 国際宇宙ステーションと「きぼう」
Chapter-194 サイエンスニュースフラッシュ 2008年2月 
Chapter-193 水星探査機ビーナスエクスプレス 
Chapter-192 脳機能に関する最新研究 
Chapter-191 サイエンスニュースフラッシュ 2008年1月
Chapter-190 超弦理論でブラックホール内部の構造が明らかになった
Chapter-189 ブラックカーボンと地球温暖化
Chapter-188 日本人が発明した垂直磁気記録
Chapter-187 サイエンスニュースフラッシュ 2007年12月
Chapter-186 お正月番外編「人を助ける へんな細菌すごい細菌」
Chapter-185 2007年に紹介した話題・その後
Chapter-184 脳機能に関するふたつの最新研究
Chapter-183 サイエンスアゴラ2007を振り返る
Chapter-182 ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功
Chapter-181 光が空間を伝わる様子を3次元の動画として記録・観察に世界で初めて成功 
Chapter-180 サイエンスニュースフラッシュ 2007年10月 


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ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
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