2009年3月28日
Chapter-232 産総研が開発したHRPシリーズの最新型ロボット  

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 独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)が人間に近い外観を持ち、人間のように動作するヒューマノイドロボット「HRP-4C」を開発したと発表しました。>>産総研Webサイト



 HRP-4Cの身長は158cm、体重は43kgで、若い日本人女性の平均的体型を模して作られています。さらに、動作に関してはモーションキャプチャーと呼ばれる方法でプログラムされているため、人間と同様の動きが可能です。モーションキャプチャーとは、人間の動きに伴う肘や関節など、体の要所の位置変化を座標に変換してコンピューターに取り込む技術のことです。得られた座標の変化をヒューマノイドで再現することによって人間そっくりの動作が可能となります。最近ではゲームのキャラクターの設計にもモーションキャプチャー技術が利用されています。

 産総研ではこれまで、アニメーション「パトレイバー」のメカデザイナーとして有名な出渕裕さんがデザインを担当したことで有名となった、HRP-2、HRP-3を発表していますが、HRP-4Cはそれらに次ぐモデルとなります。一方で、これまでのHRPシリーズがロボットアニメのメカをそのまま現実世界で作り出したかのような衝撃的な外観だったのから一転して今回のHRP-4Cはごく普通の若い女性の姿をしているのが外観での最大の特徴です。

 産総研におけるこれら一連の二足歩行型ヒューマノイドの開発はロボット技術の高度化とそれを実社会で役立たせ、生活の質を向上させることを目的として開発が進められています。実社会で役立つロボットが人間のように手足のあるヒューマノイドである必然性はないのですが、ヒューマノイドロボットは、私たちの心の中ではやはりロボットの頂点にあるものですし、一方で、日本人はそれらの姿にむしろ懐かしささえ覚え、連綿と続く日本のロボット技術の原点でもあります。

 ホンダ、トヨタなどの民間企業でも二足歩行型ロボットの研究・開発が精力的に行われていますが、今のところ、それらの多くは研究段階にあり、実社会で人間の役に立っているといえる段階にはありません。というのも、歩くだけではそれらは商品価値や使い道に乏しく、価格の高さやロボットが転んだときの周辺の人や物に対する安全性の面など、解決すべき問題が残されているためです。また、二足歩行ヒューマノイドロボットは市場規模も年間10〜20億円(産総研概算)にとどまっているということで、実用性が高くコストの低い技術の開発が待たれています。

 そこで産総研は、人間の形をして生活空間で何でも出来るロボットではなく、展示会やファッションショー等のエンターテインメント分野を最初のターゲットとして応用を進めようというプランを立てています。人間の生活空間で行動するにあたって人間の形をしているのは必須ではなく、むしろ、掃除機型ロボット・ルンバや、アザラシ型ロボット・パロ、足を持たない上半身だけヒューマノイド・ワカマルなどのように求められる機能にあわせ、姿を最適化させたロボットの方が、人間の生活空間には適しているのかもしれません。

 HRP-4Cと同様の方向性を探っているヒューマノイドに、最近、第3世代DR3を発表した株式会社ココロのアクトロイドがありますが、こちらはヒューマノイドの姿をしているものの、なめらかな動きと引き替えに自力で移動する機能を持っていませんので、産総研以上に目的に特化したヒューマノイドで、これはまた違った方向性と言えます。

 産総研のロボット技術は、HRP-2、HRP-3での研究によってオペレーティングシステム、リアルタイムミドルウエア、ロボットシミュレーター、音声認識、二足歩行などのロボットテクノロジー基盤技術の蓄積が進んでおり、HRP-4Cはこれらの既存技術を利用して効率良く開発されたことも特徴の一つです。

 現時点のHRP-4Cはまだまだプログラム開発については発展途上で、限られた動きしかできませんし、動きにぎこちなさもあります。けれど、ロボットの体のしなやかさの指標となる自由度(独立して動かすことの出来る方向)は腰に3自由度、首に3自由度、顔に8自由度もありますので、今後ソフトウエアの改良によってより人間らしく振る舞うことも可能であろうと思われます。

 ただ、モーションキャプチャーで人間の動きをまねれば人間に見えるかと言えば、そうとも言い切れないところが難しい問題で、人間が他者を認識する時に脳は相手のどこをみているのかと言った脳の情報処理や人間が人間と人形を区別する時の脳の活動などについては今まさに解明が進んでいる段階ですので、それらの先端科学も取り入れてより洗練されたヒューマノイドになることが切望されます。

 産総研では外観が人間に近いことを利用して人間が操作するために作られた機械などの使い勝手を評価する実験台への応用や人間がロボットを着るように装着し、人間の動作を補助するパワーアシストスーツの開発に応用することも考えているようですが、人間のように見えるロボット(人間と同じ動きをするロボットと同意とは限りません)を作り出すと言うことだけで十分価値のある研究だと思われます。


2009年2月28日発行 第132号の内容
  ・Chapter-230 最近の宇宙の話題
  ・納豆酵素はアルツハイマー治療に有望
  ・美的感覚の男女差
  ・NASAの温室効果ガス観測衛星が南太平洋上に落下
  ・人工衛星衝突事故でHSTがピンチに
  ・近未来の食品加工技術
  ・地球シミュレーターが新型に更新


バックナンバー
   
Chapter-231 他人の不幸は蜜の味
Chapter-230 最近の宇宙の話題
Chapter-229 ジョージ・ガモフの「不思議の国のトムキンス」 
Chapter-228 ヒラメとカレイの目の位置を決定する仕組み
Chapter-227 シャドーバイオスフィア 
Chapter-226 ジェットコースターの楽しみ方
Chapter-225 再び注目される超伝導
Chapter-224 ピンチになると活躍する遺伝子 
Chapter-223 アルツハイマー病に関する新たな発見
Chapter-222 私達が春を感じる仕組み
Chapter-221 サイエンスニュースフラッシュ 2008年11月号  
Chapter-220 惑星探査機ボイジャー2号末端衝撃波面通過
Chapter-219 絶滅動物を復活させる新技術
Chapter-218 粘菌問題再び
Chapter-217 2008年 ノーベル物理学賞
Chapter-216 2008年 ノーベル生理学・医学賞 
Chapter-215 サイエンスニュースフラッシュ 2008年9月号
Chapter-214 地熱発電の可能性
Chapter-213 夜行雲 / 天の川銀河で発見された新たな構造
Chapter-212 iPS細胞の応用
Chapter-211 長期記憶形成のメカニズムがわかり始めた
Chapter-210 サイエンスニュースフラッシュ 2008年7月 
Chapter-209 太陽電池飛行機
Chapter-208 ナメクジウオ!! 
Chapter-207 波力発電の現状
Chapter-206 サイエンスニュースフラッシュ 2008年6月号 
Chapter-205 植物のノアの方舟 
Chapter-204 iPS細胞が世界を動かす
Chapter-203 サイエンスニュースフラッシュ 2008年5月号
Chapter-202 医学の歴史上最も珍しい10の疾患 
Chapter-201 宇宙の話題を盛り合わせ
Chapter-200 PQQってなに?
Chapter-199 人類は7万年前に絶滅寸前の状態に追い込まれれていた
Chapter-198 サイエンスニュースフラッシュ 2008年4月号
Chapter-197 日焼け止めがサンゴの白化を促すことがわかった
Chapter-196 干からびた生物が元どおりに生き返るメカニズムを解明
Chapter-195 国際宇宙ステーションと「きぼう」
Chapter-194 サイエンスニュースフラッシュ 2008年2月 
Chapter-193 水星探査機ビーナスエクスプレス 
Chapter-192 脳機能に関する最新研究 
Chapter-191 サイエンスニュースフラッシュ 2008年1月
Chapter-190 超弦理論でブラックホール内部の構造が明らかになった
Chapter-189 ブラックカーボンと地球温暖化
Chapter-188 日本人が発明した垂直磁気記録
Chapter-187 サイエンスニュースフラッシュ 2007年12月
Chapter-186 お正月番外編「人を助ける へんな細菌すごい細菌」
Chapter-185 2007年に紹介した話題・その後
Chapter-184 脳機能に関するふたつの最新研究
Chapter-183 サイエンスアゴラ2007を振り返る
Chapter-182 ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功
Chapter-181 光が空間を伝わる様子を3次元の動画として記録・観察に世界で初めて成功 
Chapter-180 サイエンスニュースフラッシュ 2007年10月 


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ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
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 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

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