2009年11月21日
Chapter-265 伝統医学
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伝統医学の起こりは文明の発祥にまでさかのぼります。黄河文明、インダス文明、エジプト文明、ギリシア文明それぞれの繁栄に伴って、それぞれの地域で伝統医学が誕生しました。
日本の医療に大きな影響を及ぼしたのは中国の伝統医学です。日本には平安時代から江戸時代に伝えられ、漢方薬に日本古来の薬草の知識を付け加えて和漢薬の体系が作り上げられるなど、独自の発展をしました。中国伝統医療の特徴に鍼灸のような理学療法があります。鍼治療の作用機序は、鍼が全身の皮膚に存在するポリモーダル受容器と呼ばれる外部からの刺激を受け取る神経に作用し、その刺激が脳に伝えられて脳内の情報伝達物質などの分泌に作用し様々な反応が出るものと考えられています。また、動物実験でいわゆるツボのようなものの存在が科学的に解明されつつあります。灸についてもヒートショックプロテインと呼ばれる、熱に反応するタンパクが灸の刺激によって作り出され、それがきっかけとなって免疫機能を活性化し健康を回復することが推定されています。
また、脈を診る行為も伝統医療に端を発しています。古典的な中国の脈診では、脈は全ての内臓の状態をモニターするものだと考えられ、三カ所の脈を3種類の深さ、合計9種類の脈パターンで読み取ることによって内臓の状態を知ることができるとされています。現在日本で行われているのは、日本で独自に編み出された六部定位診(ろくぶじょういしん)という手法ですが、これも脈から様々内臓のそれぞれの健康状態がわかるとされています。
インドの伝統医学はサンスクリット語で「アーユルヴェーダ」といいます。アーユルヴェーダは中国伝統医学よりもさらに古く、紀元前13世紀から紀元前15世にまでさかのぼります。ヴェーダの知識をまとめた医学書は紀元前10世紀頃に内科の専門書「アグニヴェーシャ・サンヒター」が、紀元前7世紀頃に外科の専門書「スシュルシャ・サンヒター」と内科の専門書「チャラカ・サンヒター」が編纂されました。
中国にしてもインドにしても伝統医学というのは宇宙観とつながっていて、インドでヴェーダをもとに診療活動をした医師というのは優れた物理学者でもあったようです。人間の体の中にも小宇宙が広がっている、宇宙の構成要素も人体の構成要素も同じであるという考え方に基づいて、それらのバランスが崩れた状態が病気の状態と見なしていたのです。したがって、体内と外の自然世界のバランスを取ることがすなわち医療だったのです。
ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタ
▼宇宙の「知的生命」探索
宇宙からの電波を捉えて地球外に知的生命が損座するかどうかを調べようとするプロジェクトの観測が2009年11月11日と12日に行われました北海道から鹿児島まで国内30カ所の観測施設が共同でカシオペア座近くの特定の範囲を集中的に観測しました。ここは、1989年に強い電波が放出されているのが確認された場所ですが、それが知的生命体によるものか自然現象七日については結論が出ていません。このあと約一ヶ月をかけて観測データを解析し結果が公表される予定です。くりらじのあります山口県では山口大学の電波望遠鏡が参加します。
▼食欲を抑制する仕組みを解明
自治医大の研究グループが食欲を抑える作用を持つタンパク質の一種が脳の中で働く仕組みの解明に成功しました。この食欲を抑制する作用を持つタンパク質は「ネスファチン」と呼ばれます。ネスファチンは2006年に群馬大学の研究チームが発見したタンパク質ですが、それがどのように働いて食欲を抑えるのかはわかっていませんでした。
今回の研究でラットにネスファチンを与え、その後の脳内部の神経伝達回路の変化を調べました。その結果、ネスファチンが脳の視床下部にある食事をすることを司る部位に作用するとオキシトシンと呼ばれるホルモンが分泌され、食欲が低下することがわかりました。ある種の肥満のラットでは食欲を抑えるホルモンであるレプチンが働かなくなり、食欲が暴走していることが知られていますが、ネスファチンはこのようなラットに対しても食欲を抑える作用があることもわかりました。
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