【ヴォイニッチの科学書《有料版》番組要旨】

2011年10月01日
Chapter-360 南極昭和基地のエネルギー問題 

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 南極に4つある日本の基地のうち、昭和基地は唯一人が生活している有人基地です。調査・研究活動や隊員の日常生活に必要なエネルギーは現在はほぼ100パーセントが南極観測船「しらせ」で日本から運ばれている軽油などの化石燃料です。南極での活動の重要度は今後よりいっそう高まることから、必要とされる燃料の増加も予想されていますが「しらせ」での燃料輸送の余力はそれほど大きくはありません。従って、化石燃料の消費量を減らす方策は国内同様に重要です。現状は240kWのディーゼル発電機が2台設置され、コジェネレーション運転によって電気と熱の両方を作り出し、最高気温は約0度、最低気温マイナス35度の酷寒での活動を支えています。さらに、熱はボイラーによって補完し、昭和基地では年間に520キロリットルの燃料が消費されています。

 このような環境でどのような方法での自然エネルギーの利用が有効なのかを研究者らは考察し、太陽光と風力による発電にヒートポンプによる熱供給を組み合わせる方法がシミュレーションされました。

 南極の風は比較的強く、東京の年間平均風速が秒速3〜4メートルであるのに対し、昭和基地では最も風が弱くなる夏期でも秒速5メートルの風が吹き、それ以外の季節は平均でも秒速10メートル近い風が吹き、これは日本国内で風力発電に非常に適している地域とされている宗谷岬周辺と同等です。一方、日照量については、5月〜7月の冬の3ヶ月間は太陽が昇らないために日照量はゼロとなりますが、逆に、11月から1月は太陽が沈まないために東京の4倍もの日射量があり、年間では東京に太陽光発電を設置するのと同等の効果が期待できます。さらに、安定したエネルギーと熱の供給のためには現状のディーセル発電機およびボイラーと併用することになります。

 専門家による詳細なシミュレーションによると、現状の170kWの消費電力のうち、30kWを太陽光発電、70kWを風力発電に置き換え、残りは自然エネルギーの出力変動を吸収する意味も含めディーゼル発電を併用することが最も効率と安定性が良さそうです。この場合、年間の積算消費電力に占める太陽光発電は20パーセント程度にとどまり、パネルの増設でさらに出力を上げられそうではありますが、年間の気候の変化などを考慮すると、あまり太陽光発電の比率を上げることは望ましくないという結論が出されています。

この条件での年間化石燃料の節約量は約60キロリットルで、昭和基地での全消費量の約10パーセントを節約することが可能です。風車と太陽光によって余剰に発電される電力や廃棄される余剰なヒートポンプの熱を蓄える設備を導入することによって化石燃料消費量はさらに削減できそうです。今後は、昭和基地のような過酷な環境で風力発電装置や太陽光発電パネル、ヒートポンプなどの装置がどの程度安定して稼働するか、あるいは寒さへの対策を施した機器の開発が必要です。

(電気学会論文誌B Vol.131 No.9 「昭和基地における再生可能エネルギー導入に関する基礎検討」)

◇  ◇  ◇

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ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
 インターネット放送局くりらじ局長

 


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