【ヴォイニッチの科学書《有料版》番組要旨】
2011年11月19日

Chapter-367 原子力災害が野生生物に与える影響について  

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 放射線は人体にいろいろな良くない影響を与えますが、放射線の影響を受けるのは人間だけではありません。動物、植物、昆虫、微生物などあらゆる生物に対して、強い放射線を浴びたときに生じる急性の障害から、それよりも少ない被爆でも生じる遺伝子の変異を原因とする遺伝的影響まできわめて幅広い影響をもたらします。

 チェルノブイリの事故後、動物への影響はほ乳類、鳥類、両生類、魚類から無脊椎動物に至るまで様々な動物種で調査が行われましたが、その結果、あらゆる動物種に形態的、生理的、遺伝的な異常が起きていることが分かり、23年後の2009年の調査においてさえヨーロッパのいくつかの地域ではそれらの生物に取り込まれた放射性核種の濃度が非常に高いまま維持されることも分かりました。それらの影響は今後何十年にもわたって続くと考えられています。

 ほ乳類では、植物をエサとする野生の有蹄類において様々な調査が行われています。事故から7年から20年も経過すると多くの地域では環境中の放射能汚染は低下していますが、そのような減少傾向にある地域においても有蹄類中の体内の放射性核種、たとえばセシウム137の濃度は増加しているケースがよく見られました。

 特に秋になって冬眠を前に食欲が旺盛になると放射性物質に汚染されたオークやコケモモをたくさん食べることによって体内のセシウム濃度が11倍にも上昇している動物が発見されたこともあります。そのような現象はチェルノブイリの周辺だけではなく、遠く離れたヨーロッパにおいても見られます。汚染された山岳地帯でキノコを食べて大量に放射性核種を蓄えた野生のイノシシが発見された例も報告されていて、生活環境の放射線量を測定して安全レベルにあってもこのような野生動物が放射性核種を人間の近くまで、しかも事故から何年も経過した後に運んでくる例もあることを忘れてはなりません。

参考:科学(岩波書店)2011年11月号

◇  ◇  ◇

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バックナンバー
   
Chapter-366 動物の不思議・最近分かったことのまとめ   
Chapter-365 チェルノブイリ事故の健康被害について   
Chapter-364 ミラクルフルーツ   
Chapter-363 ついに目からビームを出すことが可能かもしれない時代に  
Chapter-362 iPS細胞、加齢黄斑変性で臨床試験へ   
Chapter-361 浸透圧発電   
Chapter-360 南極昭和基地のエネルギー問題   
Chapter-359 粒子は光速を越える速度で移動できるのか?  
Chapter-358 インバー合金   
Chapter-357 組織をスケスケにする薬を発明   
Chapter-356 生きた細胞の中身を観察する技術を開発   
Chapter-355 新たな電子顕微鏡技術  
Chapter-354 宇宙がマルチバースかどうか確かめられるかも   
Chapter-353 「イトカワ」素顔解明進む/3Dゲーム機で原子配列を学ぶ   
Chapter-352 私たちは菌の住まいだった   
Chapter-351 情報をエネルギーに変換する  
Chapter-350 農薬耐性雑草   
Chapter-349 近代科学15の革命の中の5つの革命  
Chapter-348 親の受けたストレスは、DNA配列の変化を伴わずに子供に遺伝する  
Chapter-347 耳あか遺伝子   
Chapter-346 長期記憶のメカニズム  
Chapter-345 動物の細胞は自律的に集まって器官をつくっていた   
Chapter-344 悪性腫瘍と胎生は進化の上でのトレードオフか  
Chapter-343 LHCが人類の歴史上最も密度の高い物質を生成  
Chapter-342 羽の起源  
Chapter-341 Gravity Probe A, B  
Chapter-340 ウイスキーの化学   
Chapter-339 シュレーディンガー猫状態光パルスの量子テレポーテーションに成功    
Chapter-338 さくら(/アイスキューブ)   
Chapter-337 人為的に記憶力を増強できるらしい  
Chapter-336 人工肉  
Chapter-335 見えないのに見えている可能性   
Chapter-334 テトラシラシクロブタジエン   
Chapter-333 国際宇宙ステーションの日本モジュール「きぼう」からの小型衛星の放出実験について  
Chapter-332 小学生の大規模研究で英単語を処理する脳活動の基本パターンを解明  
Chapter-331 リチウム−空気電池  
Chapter-330 熊の冬眠に関する新発見・他  
Chapter-329 恐竜の前足と鳥の翼の関係   
Chapter-328 人の振り見て我が振り直せの科学  
Chapter-327 国際化学年  
Chapter-326 お茶の効能を分子レベルで解明  
Chapter-325 雷による反物質ビームの照射  
Chapter-324 デニソワ人、現生人類と交雑の可能性  
Chapter-323 新しいトランジスタを開発  
Chapter-322 正しい枕で正しい眠り  
Chapter-321 太陽系に関する近頃の発見  
Chapter-320 低い当選確率を高めに見積もるワクワク感  



>> 「Mowton(放送終了)」はこちら

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アシスタント BJ

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ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
 インターネット放送局くりらじ局長

 


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